青木厚著「空腹こそ最強のクスリ」とは
30万部以上売れたベストセラー本。
著者は医師の青木厚氏。
この本の要諦は食事と食事の間に16時間の間隔を開けると、オートファジーが働き出して体が健康になる、というもの(オートファジーについては後述)。
例えば、夜8時に夕食を食べたら、次の食事は16時間後の翌日の昼12時にとると健康になるという。
要はよくある飯抜き健康本のひとつです。
同様の本としては、僕が読んだことがあるものだけでも、元祖甲田光雄氏の本をはじめ、ごぼう茶がヒットした南雲吉則氏の本やら、ジャーナリストの船瀬俊介氏の本やら。
そのほかにも巷には数多くの本が出ています。
そんな中で青木厚氏の本がいまさら何でそんなに売れたのか不思議で改めて読んでみたところ、優れた営業戦略とアイデアの勝利ということがわかりました。
「空腹こそ最強のクスリ」ヒットの3つのポイント
飯を抜くと病気が治るとか、空腹が若返りのサーチュイン因子を活性化させるとか、そういった空腹と健康に関する情報は既に世の中に広く出回ってます。
僕も朝飯抜きは半年ほどやったことがあります。
朝食を抜くと血糖値が上がらないので、血糖値が下がる時に感じるという空腹感を感じることなく午前中を過ごせました。 なので、午前中からかなり動けて体調も良い感じになります。 それに一食抜くので総カロリーが減ってダイエットにも効果的です。 とくに成長期を卒業した大人にとっては、朝食抜きはけっこうおすすめです。 もっとも、人それぞれリズムがあるので合ってる人には合ってるという程度ですが。 現在はなんとなく家族に合わせて朝食も取るようになっていますが、朝抜きは僕にはわりと合ってたようです。
なので、青木氏の本の内容は特に新しい話でもなくて、今更感が非常に強いのは確かです。
じゃあ、なんでこんだけヒットしたのか。
本書をよく読むと3つのポイントが浮かび上がってきました。
①ノーベル賞を受賞したオートファジー理論と関係あるかのように宣伝した点
「飢餓状態では細胞が自食作用を起こし古い細胞が新しい細胞に生まれ変わる」
というもの。
この表紙の帯部分を見ればわかるように、このオートファジー理論とファスティング(断食)を結びつけ、あたかも青木氏の主張がノーベル賞と関係のある理論であるかのように宣伝しています。
これにまず読者が飛びついたと。
しかしながら、ノーベル賞をとったオートファジー理論は細胞レベルの話でまだまだ研究途中だそうで、青木氏の主張とノーベル賞の理論は何の関係もありません。
実際、本の中でオートファジーという言葉は頻繁に出てくるものの、オートファジー理論そのものに言及している箇所は全くと言っていいほどありません。
オートファジーの研究について言及されているのはこのあたりだけ。 オートファジー理論についての詳しい説明はない。
青木氏自身もなんとなくふんわりした概念で「オートファジー」という言葉を使っているだけのように読めます(青木氏の他の本は知らないのでこの本に限っての話ですけど)。
つまり、本を売る営業側の戦略で、あたかもノーベル賞と関係あるかのように宣伝した点がヒットの要因となったわけですね。
付け加えていうと、実は本書だけではオートファジーと16時間という時間の論理的な関係もよくわかりません。
特にエビデンスが提示されているわけでもなく、単に青木氏が「そう思っただけ」のように読めます。
それどころか、巷では16時間の断食は代謝や筋肉量を落とすなどの健康面へのマイナス面が多くお勧めしない、というような見解もみられます。
②オリラジの中田敦彦さんがYouTubeで取り上げたこと
とにかく今YouTube界で再生回数を稼いでいるのが、オリエンタルラジオの中田敦彦さん。
海外移住してYouTube一本で生活してるようです。
彼がレビューした本は軒並みヒットするという。
そんな中田さんがこの「空腹こそ最強のクスリ」を取り上げたことが2つ目のヒットの要因。
僕も見ましたが、まあトークが上手いこと。
ついつい本を買って読んでみたくなります。
中田さんが「案件」として取り上げてるのかは知りませんが、とにかく中田さんの動画でヒットの勢いにブーストがかかったのは確かでしょう。
③ダイエット本として認知されたこと
帯をみると「2週間で−5キロの成功者も!」なんて書いてあるので、あたかもダイエット本のようです。
中田さんが動画で取り上げたこともあって、巷でもこの本は「ダイエット本」として認知されたようで、これがヒットの3つ目の要因となったと思われます。
確かに、食事できる時間を1日8時間に制限するので、相対的に摂取カロリー量は減るわけで、結果としてダイエットになるであろうことは事実。
ただし、青木氏は本の中ではファスティングのアンチエイジング効果を主張されてるものの、ダイエットができると書いてるわけではありません。
実際、食事をしていい8時間の間は、何をどれだけ食べてもいいという主張ですから。
読者がうまくミスリードされたことでヒットに結びついた好例といってもいいでしょうね。
「空腹こそ最強のクスリ」は営業の勝利!
というわけで、「空腹こそ最強のクスリ」は本の内容としては
など、科学的根拠に基づく論理展開を期待する層にはいまいちな本ではありますが、上記3つの要因で大ヒットに結びつけた営業陣には拍手ですね。
注目したいのは最後の奥付の部分。
この本を売り出すための「プロジェクトチーム」として数十名の名前がずらずらっと並んでいます。営業陣だけで20名ぐらいの名前が出ています。
こんな奥付は他の本ではほとんどみたことがない。
どれだけこの本の売り出しに力を入れているのかがわかります。
ちなみに発行元のアスコムという会社はアスキーの関連会社。アスキーは角川の傘下なので元を辿れば大手出版。
「空腹こそ最強のクスリ」は意識改革におすすめ
青木医師はファスティングによるご自身のガン克服体験と併せて「16時間ファスティングによるアンチエイジング」を提唱されています。
がん克服体験はその人個人の体験談としては傾聴すべきものがありますが、万人にあてはまるものではない。
がん患者が絶食療法を試すこともあるが、それで良くなるかはその人の状況次第です。
また、16時間ファスティングについても根拠が不明なので、その数字自体に意味があるようには思えません。
むしろ、あまり長時間の断食は筋肉量を落とすデメリットがあるとのことで、ただでさえ筋肉量が少なくなってくる高齢期にはおすすめできないでしょう。
とはいうものの、現代人は食べすぎ、高齢になるにつれて少食を意識するほうが健康を保てるという考えは僕も賛成です。
ということで、前述のような欠点はあるものの、「ごはんは1日三食食べるのが当たり前」という思い込みがある人にとってはこの本はおすすめです。
べつに三食食べなくてもいいんだ!という意識改革をなんとなく科学的な根拠がありそうな感じで起こしてくれることでしょう。
分量も少なくあっという間に読めますよ。
ただしすでに少食に関する本を読んだことがある人には、この本を読む必要はありません。
自ら朝食抜きを体験してみるのが一番です。
自分に合ってそうならそのまま続ければいい。合ってなければ戻せばいいと。
僕もまた気が向いたら
そのうち朝食抜きを再開してみようと思ってます。
もちろん、70歳を超えても筋骨隆々なシュワちゃんやらデニーロ御大のような体格、とまではいかなくても、そこそこ引き締まった体格の老人を目指してるので、筋トレはかかせません。
などと言いつつも、最近宇宙に行った90歳のカーク船長のあのでっぷりした体格を見れば、太った90歳も健康そうに見えていいかも、と思ったりするので、まあ我ながらいい加減なものだけど。
ま、食べ過ぎない、よく歩く、筋トレする、ぐらいを気をつけてれば十分だと思います。